【その1】 狂短歌
二〇〇七年七月七日――この日は七が三つ重なるスリーセブンの日である。このラッキーな日に私はM氏と中国西安へ出かけることになった。四泊五日の観光ツアーだが、往復に丸一日使う。だから西安の滞在は実質三日間になる。
この日は私の五十三回目の誕生日でもある。教員退職後七年、すでに本を二冊出版した。そして今月末には三冊目となる狂歌とエッセーの本――『狂短歌人生論』が出版される。
それを前にして意気軒昂と言いたいところだが、気分は沈んでいる(-_-)。
落ち込みの理由は先月実施した著書プレゼントのせいだ。「狂歌今日行くジンセー論」や「競馬メルマガ」ブログ、それにホームページの読者は合わせて三百名ほどいる。その読者を対象に『狂短歌人生論』の著書プレゼントを実施した。
先月応募を募り三日前に締め切った。すると十冊の著書プレゼントに対して三人の申し込みしかなかった。それを見て「反応してくれたのは三百名のわずか一パーセントかぁ(--;)」と思ってがっかりした。
このまま実数を発表するのはかなり恥ずかしい。それに偽装ばやりの昨今、何名応募があったのか、私以外誰も知る者はない。
ならば「著書プレゼントに六十名の応募があり、十名の方が当選されました」とでもでっちあげようかと思った(^.^)。
そのせいというわけでもないが、ここ数日気分はふさぎがちだった。
また、西安観光自体も「ぜひに」という気持ちではない。
M氏とは数年前アンコール・ワットに行った。彼は今年三月に定年退職したので、時間も金も余裕がある。
数ヶ月前M氏から「また海外旅行に行かないか」と誘われたとき、私はちょっと躊躇(ちゅうちょ)した。
時間なら私にもたっぷりある。しかし、貯金食いつぶし生活だから、先立つものが少なくなり、外国ならどこでもいいというわけにはいかなかった。
ただ、西安なら空海を書くと決めた以上いずれ行かねばならないし、行ってもいいと思っていた。
そこでM氏に「アンコール・ワットのときのように、西安オンリーの旅行だったら行ってもいいですよ」と返事をした。
☆ 西門静寂の城壁
西安は唐時代に長安と呼ばれ、空海が遣唐使の一員として訪れ密教を学んだ。西暦では八〇四年で、今からほぼ一二〇〇年前のことだ。空海を書くと決めた以上、西安は絶対訪ねる必要があるだろう。
「空海伝」の構想はほぼできあがっていた。そして私のくせというか今回も妙な構成を盛り込んで、長編必至の気配だった(^.^)。空海の目覚めから遣唐船に乗り込むまでの青春期だけでもかなりの分量になるだろう。それゆえ空海の長安滞在は書き込めない可能性が高い。
あるいは、そこまで書き込めば、また上下二冊となって西安滞在は後編になる。だから、西安取材旅行は二、三年後でいいかなと思っていた。
ところが、五月になってM氏は私が求めた条件にぴったりのツアーを探し出した。現地滞在は三日間だが、西安のみの観光ツアーである。料金も手頃。M氏は「これならどうだ」という感じでパンフレットを見せてくれた。
話を聞いて私はまた迷った。と言うのは現在日本も西安も宵の明星の時期である。できるなら明けの明星の時期に西安を訪ねたかったからだ。
四国明星の旅では、明けの明星を眺めながら空海の謎について様々なひらめきを得ることができた。それもあってどうせ行くなら、明けの明星の時期にしたかったのだ。 ☆ 兵馬俑(へいばよう)
だが、明星のことはM氏に話していなかったし、彼がこちらの要望を聞き入れてくれた以上、もはや「行きたくない」とは言えない。それに来年は北京オリンピックがあって中国旅行は割高となるだろう。今のうちに行っておいた方が良さそうだ。
私はM氏に「行きましょう」と返事をした(^_^;)。
ならば、せめて西安で宵の明星だけは見たい。そうすればまた何かしら感ずるものがあるかもしれない――出発が近づくにつれ、私はそう前向きに考えることにした。
ところが、気分が落ち込んでいるときは自然もそれに応じるのだろうか。昨夜インターネットで《世界の天気予報》を調べてみると、西安はこれから一週間ずっと《雲》のマークばかりである。これには驚くと同時にがっかりした(-_-;)。
西安の夏はかなり暑くて四十度前後まで上がるらしい。ならば晴天続きかと思われるのに、七日から一週間全て曇り予想である。これでは果たして宵の明星が見られるかどうか。さらにいやな予感噴出である。
そんなわけで出発前なのに、あまり気分の乗らない西安旅行なのであった(^_^;)。
だが、行くと決めた以上はじっくり味わいたい。空海が恵果(けいか)和尚に師事した青龍(せいりゅう)寺も訪れる。行程は全て決められたツアーだが、可能なら西安市内を一人で歩いて空海の気持ちを少しでも感じ取りたい(^.^)。
インターネットの長安観光サイトをのぞいて見ると、どれもこれも似たり寄ったりで「兵馬俑(へいばよう)がすごい」の感想がほとんどである。果たして私独自の感想を見いだせるか。ごく平凡な旅行に終わりそうな予感もある。
☆ 鐘楼(しょうろう)より南大門を望む
○ 空海の足跡たずね西安へ 出発前の気分イマイチ
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:そんなわけで連載ですから、今年一年時事的話題にはほとんど触れず、毎月一度のペースで「西安宵の明星旅」を連載いたします。時間に余裕のある方、読んでいただければ幸甚のいたりであります(^_^)。(御影祐)
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