万引きの中高生と中高年一字違いの心の病
○ 万引きの中高生と中高年一字違いの心の病
今の子どもたちの問題行動を見るとき、その根底に人とのつながりのなさを感じる。
先日テレビで本屋の万引きが報道されていた。白昼堂々と漫画本などを万引きしていく。それも一冊二冊ではなく、大量にバッグに入れて盗む。犯人はほぼ中高生のようだ。その中の一人はインタビューに答えて「スリルと実益だ」などと言っていた。
飛躍するけれど、盗みを悩まず反省しない子どもは、やはり愛されなかった(と思いこんだ)子どもだと思う(これは「愛されなかった事実」が半分、「自分は愛されなかったとの思いこみ」が半分という意味)。
そこには人としてのつながりと想像力が欠けていると思う。自分の今の衝動や気分が最優先だから、未来の自分など想像もしない。自分が将来本屋の店員や主人として働き、青少年の万引きに苦しんでいる(そして倒産までしてしまう)姿を想像することができない。
彼らはたぶん親とつながっていないと思う。人とつながっていないと思う。だが、それは自分が愛されていないと思いこんだときの子どもの姿なのだ。そして、本人は自分が愛されていないとは思っていない。それがこの悲喜劇の特徴のような気がする。
これは人が落ちやすい一つの落とし穴。愛されていないと言う名の落とし穴だが、そこに落ちた当人にはそれがわからない。薄々感じていても、それを認めようとしない。愛されていないと認めれば、もっとみじめな思いに突き落とされるからだ。
彼らをその落とし穴からすくい上げねばならない。それができるのは、彼らの身近な親であり友人であり、周囲の大人しかいないだろう。そして、そのようなテレビ報道を見る私たちが目指すことは、自分の周囲の人たちがその穴に落ち込まないよう注意することだろうか。愛されないと言う名の落とし穴は子どもに限らない。大人だって何かの拍子に、ふっとはまってしまう穴だからだ。
そんなことをつれづれ考えた翌日夜のことだった。夕食を食べながらテレビを見ていたら、前日と別のテレビ局で、今度は高齢者や中高年の万引き実態が放映されていた。
私は中高生の万引きについて上記のような感想を抱いた。注意しないと「愛されないと言う名の落とし穴は子どもに限らない。大人だってはまってしまう穴だから」と思った。
そうしたら、この夜のテレビでは高齢者や中高年の悲惨な万引きが報道されていたので驚いた。
中高生の万引きが主として書物(や小物)なら、高齢者や中高年の万引きはスーパーで食料品や日用品を盗む。八十代、七十代のじいちゃんが肉や卵などを万引きする。おそらく彼らは一人暮らしだと思う。一方、四十代五十代の中高年はリストラ・離婚されたおやじさんだろうか。
捕まえられた彼らは「生活苦のため」と言い訳をする(おそらく半分は本当だろう)。妻と子どもがいるおやじさんもいる。捕まえられても全く反省の色がなく、嘘を塗り固める中高年もいた。その姿は万引きでつかまり、居直ったときの中高生と一緒だった。
その中に四十七歳の男性がいた。やはり仕事がなく食料品の万引きを働いた。初犯と言うその言葉は信じていいかもしれない。店側から誰か引き取り人をということで、彼の母親に来てもらった。母親はなんと八十三歳だ。
さすがにくだんの中年男性は号泣して母に謝っていた。老母は「いいよ、いいよ」とうなずきながら「負けちゃいけん、負けたらいけん」と言っていた。
親にとって子はいつまでたっても子どもなんだろう。その男性が既婚かどうかわからなかったが、身内はその母一人なのかもしれない。また、以前見た別の番組では、逆に年老いた父または母の万引き犯を引き取るため、その息子がやって来るというのもあった。これからこの種の犯罪はもっと増えそうな気がする。
太古の昔から悩む事なき、反省する事なきヤカラはいた。だからこそキリストは「悩める者は幸いなり」と言ったのだろう。悩むことは苦しいけれど、人が悩み苦しむことは「負けない」姿のような気がする。
悩み苦しむことに負けたとき、人は人の道を平気で踏み外すのではないか。そして、人の道を踏み外しても、居直り開き直って「見つからなければ何やったっていい。俺はやりたいことをやりたいようにやるんだ」とうそぶいているのだろう。
それにしても、彼らの状況は、個人として時代の流れに負けた姿ではあるけれど、社会全体の問題でもあると思う。毎年の自殺者三万人という数も、時代に負けた累々(るいるい)たるしかばねの山。その中にはリストラされた中高年も多々いるとのこと。
仕事さえあれば真面目に生きられる人たちだと思う。それを思えば、中高年の自殺や万引きも、ある意味で社会への反抗と言えるのかもしれない。
ところが、悲しいかな、現代人はもはや団結できないし、強い者に歯向かえない。だから、弱いところや弱い自分に反抗が向けられるのかもしれない。
○ 万引きの中高生と中高年 一字違いの心の病
○ 万引きの中年男号泣する 負けちゃいけんと老母の言葉
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